ザンビの正体とはなにか?

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0.はじめに

舞台ザンビ公式パンフレットには次のような記載がある。

ザンビとは、人間の怨念から生まれた呪いの連鎖なのか?世界を破滅させるために作られた生物兵器なのか?謎多きザンビの正体。

 結局舞台の中ではザンビの正体が明かされることはなかった。正解はドラマや舞台、ゲームに委ねるとして、今回は自分なりの考察をしていきたいと思う。

 

さて、ザンビの正体とはなんなのか?私はズバリ、日本住血吸虫症だと考えている。

 

なお、寄生虫の写真は筆者自身が寄生虫などの虫が苦手なこと、症例患者写真は肖像権や著作権の問題を踏まえて載せていない。あらかじめご了承いただきたい。気になる方は自身で調べてほしい。

 

 

1.日本住血吸虫症

(1)日本住血吸虫症・住血吸虫症の概要

日本住血吸虫症とは吸虫が血管内などに住み着くことによって起こる寄生虫性疾患、住血吸虫症のうちの1種である。
住血吸虫症は世界78ヶ国に感染が報告されており、2013年の時点で少なくとも2億6千万人に継続的な集団駆虫対策が必要であると考えられている。

そのためWHOは克服すべき疾患とし、「顧みられない熱帯病」(Neglected Tropical Diseases=NTDs)のひとつに指定している。

 

(2)歴史

日本住血吸虫症は古くから特定の地方・地域に発生し、「水腫張満(すいしゅちょうまん)」、「片山病」などの呼び名を持つ風土病として知られてきた。

その後1904年に日本住血吸虫が、中間宿主のミヤイリガイは1913年に日本の研究者によって発見された。その後治療薬の開発やミヤイリガイの撲滅などを経る。

1977年に山梨県内で発生した3例を最後にそれ以降新たな感染者は確認されず、1996年の山梨県における終息宣言、2000年の筑後川流域における撲滅宣言をもって日本国内での日本住血吸虫症は撲滅した。住血吸虫症を撲滅・制圧したのは世界において日本のみである。

なお、現在日本においては海外渡航者による住血吸虫症の発症が確認される他、肝臓や腸管組織に残存した虫卵が検出される陳旧性症例が確認されている。

 

(3)症状

住血吸虫症の原因は、血管内に帰省した成虫の産卵である。特に日本住血吸虫は一日あたり約3000個もの虫卵を産み、激しい症状を引き起こす。産卵された虫卵は肝臓などにたまり血管塞栓や組織の壊死を引き起こす。

初期症状は発熱や腹痛などの軽いものであるが、やがて病状が進行すると貧血を起こしたり脈拍が細くなったりする。そして末期には肝臓などが腫大し多量の腹水がたまり腹のみが大きく膨れる。やがて衰弱して死に至る。

また、虫卵は血液を通して脳へ蓄積することもあり、麻痺や失語症などの脳疾患や脊髄圧迫症を引き起こすこともある。

 

(4)人への感染経路

日本住血吸虫症の一生(生活環)は以下のイメージ図にある通りである。

 

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日本住血吸虫症の生活環(イメージ)

①感染したヒトや動物の糞便と共に虫卵が排出される。

②水中でふ化し「ミランジウム」となる。

③中間宿主である水陸両生淡水産巻貝、ミヤイリガイに侵入する。

④貝の体内でミランジウムは幼虫「セルカリア」になる。

⑤セルカリアが水中に遊出する。

⑥タンパク質分解酵素を分泌し、終宿主であるヒトや哺乳類の皮膚から体内へ侵入する。

⑦体内で成虫になる

感染経路は水で、農作業や遊泳などのためにセルカリアの遊出している水田や水路、河川などに手足を浸した時に感染する。

 

(5)旧有病地

利根川下流域 (千葉県,茨城県

小櫃川下流域 (千葉県)
甲府盆地および富士川流域 (山梨県

・沼津地方 (静岡県

・片山地方 (現広島県福山市) および筑後川流域 (佐賀県,福岡県)

特に甲府盆地底部一帯は国内最大の罹病地帯であったため、この地は原虫の発見、治療、予防から終息宣言に至る歴史の中心的地域となった。さらにこの地には日本住血吸虫症に関する様々なことわざや俗謡が生まれた。

例えば

「水腫張満 茶碗のかけら」

ということわざはこの病に罹ると割れた茶碗のように二度と元には戻らず、役に立たない廃人になりこの世を去るという意味である。

また、甲府盆地において発症者の多い地区に偏りがあったことから

「竜地(りゅうじ)、団子(だんご)へ嫁に行くなら棺桶を背負って行け」、

「中の割(なかのわり)に嫁に行くなら、買ってやるぞ経帷子に棺桶」

などという俗謡が謡われた*1

 

 

2.日本住血吸虫症がザンビの正体となる根拠

(1)ザンビ=生と死の間を彷徨い続ける異形のものであること

舞台ザンビ公式パンフレットにはザンビとは生と死の間を彷徨い続ける異形のものであり、噛まれて感染すると二度と元には戻れないとある。

ここで重要なのはザンビは生と死の間に存在しているということである。生きていながらにして死んでいる。死んでいるが生きてもいる。つまり生きているし、死んでいるということなのである。日本住血吸虫症を発症している間は生きていると言えるし、健康=生と捉えれば死んだも同然と言えるのではないか。

また、ザンビ化すると異形となることや、ザンビ化したら二度と元には戻れないという設定は日本住血吸虫症の症状や「水腫張満 茶碗のかけら」のことわざを思い出させる。

さらに2016年に公開された『VIRAL(ヴァイラル)』という寄生虫による感染でゾンビ化する映画作品も存在する。こういった作品も参考としている可能性が高い。

 

(2)ザンビ村と残美信仰の特徴と甲府盆地の環境に共通点があること

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動画の冒頭にある古びた映像の音声を書き起こしてみた。

信州の山深き秘境に佇む古の残美信仰が残る村。

ザンビとは生と死の狭間にある存在。

古くから棺桶を作り、生業としてきたこの村では、

かつて生きながらにして埋葬された女が蘇り災いをもたらしたとされている。

通称・ザンビ村。

村では今もザンビ伝承の祀りが執り行われている。

特に最初の「信州」という言葉はノイズや音のこもりによって聞き取りにくくなっているので確実だとは言えないが、ザンビの正体が日本住血吸虫症だとしたら充分ありえるだろう。

また、俗謡で嫁入り道具として棺桶を持たせると謡われる程なのだから棺桶作りを生業にする人々や村も多少はあったのではないかと推測できる。

これらを踏まえるとザンビ村は日本住血吸虫症最大の罹病地であった甲州盆地に存在しているといえる。

以下余談。

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『【ザンビ】プロジェクト 始動』冒頭部分

この冒頭の映像には「昭和34年10月 帝都大学 民俗學研究所」とある。

 

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そしてこの映像は同じく昭和34年に製作された『人類の名のもとに』という映画で、山梨県を舞台に日本住血吸虫撲滅の模様を実話に基づいて描いたものである。

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『【ザンビ】プロジェクト 始動』内で映し出されるザンビ村の情景

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『人類の名のもとに』で映し出される情景

このように茅葺の日本家屋などの情景が類似している部分もある。

もし、ザンビの正体が日本住血吸虫症(もしくはそれがモチーフとなった)ならば、この映像を参考にしていることも大いにありえるだろう。

さらに蛇足だが帝都大学民俗學研究所の映像は片桐仁演じる記者、守口琢磨がザンビを追う過程で入手したものだろうと推測している。あらすじに「村から出ていくよう」警告したとあるが、守口はザンビがある程度危険なものだと知っておりさらに詳しく調べるために村へ潜入、その途中でフリージア学園の一行に出会ったと予想する。

 

(3)水が感染経路であること

日本住血吸虫症の感染経路が水であることも重要である。

フリージア学園は全寮制の女子校である。全寮制の場合、食事場や風呂、トイレなどの水回りは共用である場合が多い。

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『【ザンビ】プロジェクト 始動』内の秋元真夏によるシャワーシーン

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『【ザンビ】プロジェクト 始動』内の山下美月によるシャワーシーン

実際フリージア学園はこのようなタイプの風呂のようである。

さらにフリージア学園は舞台内で「フリージア監獄」と呼ばれるように閉鎖的な環境であることが推測できる。そのような環境において風呂などで共有されやすい水が感染経路となる日本住血吸虫症は爆発的に感染が広まるのではないだろうか。

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『【ザンビ】プロジェクト 始動』内のワンシーン

学園の外にザンビ化が明らかになる前にこのような状況になることも十分に可能性がある。

 

(4)日本住血吸虫症はイヌにも感染すること

日本住血吸虫症をはじめとする住血吸虫症の特徴は人獣共通感染症である点だ。ヒトだけでなくイヌやネコや家畜などの哺乳類にも感染する。

ここで舞台ザンビにおける登場人物を思い出してみたい。フリージア学園の生徒、警備隊の面々、特別避難所であるフリージア学園に収容される一般人、そして犬である。フリージア学園が備蓄している食料を食い荒らしたとして犬が登場しているのである。フリージア学園の教師である本庄美奈子は鳴沢摩耶、一ノ瀬杏奈、桂雪穂、一色彩菜の4人が来てからザンビが現れるようになったとして特に鳴沢摩耶と一ノ瀬杏奈を疑うが、厳密にはその後野犬が学園内に侵入しているのだ*2。この時備蓄食料の管理を任されていたのは本宮佳蓮・飯野ゆかりの2名であった。そしてその本宮佳蓮は最初にザンビ化した人物なのである。食料を荒らした野犬であると報告できるということは2人と野犬に接触があった可能性が高い。この野犬がすでにザンビ化しており、2人と接触した時に本宮佳蓮がザンビに感染したのだとしたらつじつまが合う*3

ここでザンビ化した状態で学園に現れた天津圭の存在が浮上する。しかし天津圭が本宮佳蓮をザンビ化させたのだとしたら同時に、もしくはもっと早い段階で飯野ゆかりや八島桐子らがザンビ化していてもおかしくはない。それよりも野犬侵入後に本宮佳蓮がザンビ化していること、本宮佳蓮のザンビ化を機に学園内でザンビ化が爆発的に増えることからザンビ化した野犬が学園内感染の原因だと考える方が妥当である。舞台はザンビプロジェクトの第1弾であり後続コンテンツのストーリー展開上、明かせない設定もあったと推測できる。ザンビの正体もそのうちのひとつであろう。ザンビの正体が明かせないが故に犬が原因であるという内容にはできず、その結果犯人役としてあてがわれたのが天津圭という人物なのではないだろうか。

 

 

3.まとめ

以上がザンビの正体に関する考察である。

特に2–(4)の項目はこじつけ感が否めないがそこは”オタクによる考察”ということで許してほしい。

今回日本住血吸虫症、特に歴史についてはほんのさわりしか書いていない。実際は国立科学博物館で企画展を催せるほどの歴史とそれに伴う資料が存在する。下に記載している参考文献の多くはインターネットを通して閲覧できるものなので興味を持った方はぜひそちらを参考にしてほしい。

また、参考ホームページには記載していないがウィキペディア

住血吸虫症 - Wikipedia

地方病 (日本住血吸虫症) - Wikipedia

の項目は比較的引用元や参考文献等が明確に、かつ詳しく記されているのでこちらもある程度参考にできるだろう。

さて、この記事が的を射ているものなのか、はたまた大きく見当違いをしたものなのか…。

これから始まるドラマや舞台、ゲームに期待をして締めたいと思う。

 

 

 

【参考文献】

山梨地方病撲滅協力会編(1977)『地方病とのたたかい』,有限会社平和プリント社

 

中村 磐男 ・大江 敏江(2010)「河川環境の復元と感染症 : ツツガムシ病や住血吸虫症は再燃(再流行)するか」,『聖学院大学論叢』23(1),pp103-120

 

 石坂眞澄(2013)「国立科学博物館企画展 「日本はこうして日本住血吸虫症を克服した-ミヤイリガイの発見から100年 によせて」『農業と観光』158,独立行政法人農業環境技術研究所

 

桐木 雅史 ・林 尚子 ・千種 雄一(2015)「住血吸虫症(<特集>国境を超える感染症)」,『Dokkyo journal of medical sciences』42(3),pp233-237

 

 

【参考ホームページ】(2019年1月17日アクセス確認済み)

NIID国立感染症研究所(住血吸虫症とは)

https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/413-schistosoma.html

ザンビ|日本テレビー日テレ

https://www.ntv.co.jp/zambi/

 

 

*1:竜地、団子、中の割はいずれも地名

*2:もちろんこの時点においてザンビ感染者は出ておらず、ザンビ感染と見せかけて八島桐子を殺した本庄が2人に罪をなすりつけるために言った嘘である

*3:ここでは日本住血吸虫の生活環などは無視し、設定のみを生かした場合の推測である